
1. ポートレート撮影におけるレンズの役割とは?
ポートレート撮影とは、単に人の顔を写すだけではないはずです。
- 「その人をどう感じたか」を写真という形で表現する芸術です。そしてその印象を最も左右するのが、レンズ選びです。同じカメラでも、レンズが違えば世界の見え方が変わります。
たとえば──
- 35mmでは現場の空気感まで写し込み、ドキュメンタリー的になります。
- 85mmでは背景がとろけ、被写体が浮かび上がるように描かれます。
つまり、レンズは写真家の感情を表現する“言葉”なのです。

2. なぜレンズ選びで印象が変わるのか?
Q:焦点距離が違うと何が変わるの?
A:焦点距離とは、被写体との距離と画面の圧縮感を決める値です。
広角(35mmなど)では背景を多く取り込み、臨場感を出せます。
望遠(85mm以上)では背景がボケて、被写体が際立ちます。
つまり焦点距離を変えるだけで、「写真が語るストーリー」や「感情の深さ」が変化するのです。
3. 焦点距離別|ポートレートの印象と特徴
3.1 35mmレンズ|物語と空気を写す「広がりのある視点」
35mmは、被写体と背景の関係を同時に描くことができる焦点距離です。
“その人がどんな場所にいるか”を含めて表現できます。
- ストリートポートレートや旅先スナップに最適
- パース(遠近感)が強調され、躍動的な印象
- 周囲の空気感を自然に残せる
補足:「パース」とは、広角で近距離撮影すると前が大きく、奥が小さく写る遠近の強調効果のことです。
3.2 50mmレンズ|人間の目に近い自然な描写
50mmは「肉眼に最も近い焦点距離」と呼ばれます。
被写体と背景のバランスが自然で、歪みも少ない。
- 初心者におすすめの万能レンズ
- 開放F1.4前後で背景を柔らかくぼかせる
- 日常の中の“美しい瞬間”を切り取れる
ポイント:ポートレート初心者はまず50mmから始めると、距離感や構図の感覚を自然に掴めます。
3.3 85mmレンズ|背景を溶かし、被写体を際立たせる定番
多くのプロカメラマンが使用する“必須のポートレートレンズ”。
- 顔の形が自然に写り、立体的な美しさを再現
- 背景がとろけるようにボケる
- 被写体を主役として浮かび上がらせる力が強い
「人物の美しさを最大限に見せたい」ときに最適です。
3.4 135mm以上の望遠域|静けさと距離感を描く
135mm〜200mmの望遠レンズでは、圧縮効果が強くなり、背景が被写体に近づいて見えます。
- 画面全体に静寂が漂う
- 被写体を“遠くから見つめる”ような表現
- 感情よりも観察者の視点を重視する表現に適する

4. F値とボケが生み出す“写真の感情”
4.1 開放F1.4の描写|夢の中のような光の質感
明るい単焦点レンズ(F1.2〜1.8)は、背景がふんわり溶ける“ボケ”が特徴。
- 被写体だけが浮かび上がる
- 光が柔らかく滲み、幻想的な雰囲気になる
- 逆光では光の粒(バブルボケ)が美しく広がる
Tip:F値が小さいほど、被写界深度(ピントが合う範囲)が浅くなります。
4.2 F2.8〜4の描写|リアルな奥行きと立体感
絞ることで背景情報が残り、立体感が強調されます。
- 雑誌・広告撮影など“現実感”が求められる場面に最適
- 被写体と背景の関係性を明確に見せられる
4.3 ボケの「量」だけでなく「質」が重要
同じF値でも、レンズ構成や絞り羽根の形でボケの性質が変わります。
- 丸く柔らかいボケ → 優しい印象
- 二線ボケ → 緊張感や立体感
- 光輪(バブルボケ) → 幻想的でアート的
レンズの性格として、ボケ描写は個性の一部。
5. 単焦点 vs ズーム|どちらを選ぶべきか?
5.1 単焦点レンズの魅力|“動き”が生む臨場感
焦点距離が固定されているため、撮影者が自ら動く必要があります。
その「動き」がコミュニケーションを生み、被写体の自然な表情を引き出します。
- 構図に集中できる
- 明るく高画質
- 撮影者の感性を磨ける
5.2 ズームレンズの魅力|瞬間を逃さない柔軟さ
焦点距離を瞬時に変えられるズームレンズは、商業撮影やイベント撮影で重宝します。
- シーンに合わせて構図を即調整できる
- 被写体の動きに柔軟に対応できる。
- 1本で複数の焦点距離をカバー
5.3 目的別で選ぶレンズ
| 撮影目的 | 推奨レンズ | 特徴 |
|---|---|---|
| 作品撮影 | 単焦点 | 制約が創造を生み、構図に集中できる |
| 商業撮影 | ズーム | 効率と確実性を重視 |
結論:レンズ選びは、技術ではなく「自分がどう被写体を見せたいか」という考え方が重要です。
6. メーカー別レンズ描写の特徴
6.1 純正レンズ|正確で自然な再現性
- AF(オートフォーカス)精度が高く信頼性抜群
- 肌色や階調再現が自然で補正が少ない
- カメラとの相性が最適化されている
6.2 サードパーティレンズ|個性派の表現力
独自の描写特性を持ち、作品制作の幅を広げます。
- シグマ(SIGMA):高解像・高コントラスト。アート志向の写真家に人気。
- タムロン(TAMRON):軽量・コスパ良好・自然な発色。
- ツァイス(ZEISS):重厚な立体感と深い色。質感描写が唯一無二。
7. 被写体との距離が変える“心の距離”
| 距離 | 印象 | 特徴 |
|---|---|---|
| 近距離(35mm前後) | 親密・緊張感 | 息づかいまで写る距離。感情が出やすい。 |
| 中距離(50〜85mm) | 自然・会話的 | 被写体がリラックスし、表情が柔らかくなる。 |
| 遠距離(135mm以上) | 静寂・観察者視点 | 被写体を尊重する距離感。静けさを表現。 |
距離感は、単に「離れて撮る」ではなく、「心の距離」をも意味します。
8. シーン別おすすめレンズ選び
| シーン | おすすめレンズ | 理由 |
|---|---|---|
| 屋外ポートレート | 85mm F1.4 | 柔らかいボケと光の表現が美しい |
| 室内・スタジオ | 50mm F1.4 / 85mm F1.8 | 明るさ確保と自然な構図 |
| 夜・イルミネーション | 35mm F1.4 | 玉ボケと光の演出が魅力 |
| ストリートポートレート | 35mm / 50mm | 距離感と空気感を両立 |
9.レンズで変わる写真
- 使い慣れたレンズ:安心感があり、光の扱いを体で理解できる。
- 新しい焦点距離:視点の変化を生み、表現の幅を広げる。
- レンズを変えること=視点を変えること。
レンズは単なる道具ではなく、あなたの感性を写す鏡です。

この記事のまとめ
- 焦点距離は「距離感」を、F値は「感情」を変える。
- 単焦点は創造性を、ズームは確実性を重視する。
- レンズごとの描写特性を理解することで、表現の幅が広がる。
- 最適なレンズは「技術」ではなく「感性」で選ぶ。

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