
写真編集における目の疲れとは?
写真編集やレタッチとは、画像に対して色や明るさ、質感などを微細に調整する繊細な作業です。特にプロフェッショナルにとっては、わずかな色の変化や光の加減が作品の完成度を大きく左右します。そのため、編集作業中の「目のコンディション」がパフォーマンス全体に直結します。
しかし、長時間のディスプレイ作業により「デジタル眼精疲労(Digital Eye Strain)」を引き起こし、視覚の正確性や感性のブレが生じることも少なくありません。
このページでは、目の疲れの原因を科学的に解明しながら、プロも実践している「環境づくり」「目のケア法」「感性リセット」のベストプラクティスを具体的にご紹介します。

なぜレタッチ作業で目が疲れやすいの?
3つの要因が関係します。
① ピント固定による筋肉の緊張
長時間、画面に集中していると目の中の毛様体筋がずっと緊張したままとなり、ピント調整機能が疲弊。特に近距離に固定された視点は”焦点ストレス”を引き起こし、かすみ目や乾燥感を助長します。
📌補足:毛様体筋とは? 目の中でレンズ(水晶体)の厚さを調節し、近くや遠くを見る機能を担う筋肉です。
② 高輝度&ブルーライトによる視覚負荷
編集に使うディスプレイは高輝度な上、ブルーライトが豊富。これにより視覚の適応バランスが乱れ、まぶしさ・にじみ・色のズレを感じやすくなります。
- 強いブルーライト=網膜障害のリスクは限定的という研究結果もあります
- 一方で、ブルーライトカット眼鏡が眼精疲労を和らげるエビデンスは乏しい
📌補足:ブルーライトとは? 可視光線の中でも波長が短く、エネルギーが強い青色光(約380〜500nm)のこと。体内時計や睡眠にも影響を与える。
③ 色適応による“感覚の摩耗”
同じ色調の画像(例:肌色、青空)を長時間見続けると、色の違いを判別する力=色差感度が鈍化していきます。これは「知覚的適応」と呼ばれ、結果的に色判断の精度が落ちることに繋がります。
📌補足:知覚的適応とは? 感覚器官が特定の刺激に長時間さらされることで、反応が鈍くなる現象。

どんな症状が出たら要注意?
下記のような体感が出たら即対処が必要です。
- ピントが合いにくい、文字がかすむ
- 光がまぶしく感じる、白がギラつく
- 色が転んで見える(例:「赤が濃く感じる」「青がくすむ」)
- 判断が鈍り、色補正の精度が落ちる
- 集中力が続かず、首・肩・頭が重い
📌補足:デジタル眼精疲労(DES)とは? 長時間のパソコン・スマホなどの使用で生じる現代型の眼精疲労のこと。乾燥・視力低下・頭痛・肩こりなど多岐にわたる。
写真編集における“目を守る環境設計”とは?
モニター設定を見直す
- 明るさ:周囲環境とのギャップを抑える
- 色温度:5000〜6500Kが写真編集に最適(印刷標準のD50相当)
- キャリブレーション:定期的に実施して色の再現性を保つ
📌補足:D50とは? 色温度5000Kの標準昼光。印刷や色評価環境の国際基準として使われる。
周囲の照明を整える
- 照度:300〜500ルクス程度が目に優しい
- 色温度:昼白色(約5000K)で自然な色再現
- 光の方向:間接照明で映り込みを防止
周囲の照明を整える
適切な照明は、目の疲れを防ぎ、正しい色再現を保つ鍵です。照明が強すぎたり色温度が合わないと、目の負担や判断誤差につながります。印刷・写真業界で基準とされているISO 3664では、色評価のための照明条件が定められています。
- 照度:300〜500ルクス程度が目に優しい
- 色温度:昼白色(約5000K)で自然な色再現
- 光の方向:間接照明で映り込みを防止
📌補足:ISO 3664とは? 色評価用の照明環境に関する国際規格。印刷・写真業界での標準的光条件を定めている。
モニターとの距離・角度を調整
- 距離:50〜100cmが目安
- 角度:モニターは視線より15度ほど下に設置
部屋の湿度と温度を管理
- 湿度:40〜60%RHをキープし乾燥を防ぐ
- 温度:20〜26℃が作業に最適(体調管理にも有効)
📌補足:RH(Relative Humidity)とは? 相対湿度のことで、空気中の水分量を示す割合(%)。
目を守る“休憩&ケアテクニック”5選
1. 20-20-20ルール
- 20分作業ごとに、20秒間、6m以上先を眺める
- 調節筋の緊張を和らげ、目のピント機能をリセット
📌補足:このルールは米国眼科学会(AAO)などでも紹介されており、VDT作業時の目の負荷軽減に広く推奨されています。
2. 短時間の“目を閉じる”休憩
- 数十秒間、目を閉じるだけでも涙液の再分布・視覚の静養に効果的です。
3. 自然光で目をリフレッシュ
- 屋外の緑や空を眺め、自然光を取り入れることでモニター光に偏った視覚刺激をリセット
- 太陽光には明暗差があり、調節機能の回復や自律神経のバランス調整にも効果的
- 5〜10分の“外視リフレッシュ”を習慣にすることで、目と脳の疲労回復が促されます。
4. 作業を90分単位で区切る
- 1セット90分 → 10〜15分の小休止(ストレッチや軽い遠視)をする
5. ホットアイマスクの活用
- 40〜45℃の温感で目の周りの血流を促進。作業後の回復に最適
📌補足:温熱療法は、眼輪筋・毛様体筋の血流改善と緊張緩和に有効とされ、睡眠の質にも好影響を与えます。
ブルーライト対策の正解とは?
編集中の強いカットは非推奨
- 色再現に影響するため、編集作業中はブルーライトカットOFFまたは軽度におこなう。
休憩中・就寝前:積極的に使用
- 夜間はメラトニン分泌を妨げるため、リラックスタイムには有効です
📌補足:メラトニンとは? 睡眠を促進するホルモンで、暗くなると分泌量が増加。ブルーライトはこれを抑制する作用がある。
低カット率製品を選ぶポイント
- カット率10〜20%台で色再現性を損なわないタイプが理想
- スペクトル特性が公開されている製品を選ぶと安心
レタッチ後の“感性リセット法”
- ホットアイマスク or 温感タオルでクールダウン
- 緑や自然の色を見る(室内から遠景でもOK)
- 一度プリントして「反射光」で色を確認する
- アロマや音楽で脳をリラックスモードへ
🪶 “光と向き合う仕事だからこそ、意識的に闇をつくる時間が必要”
ワークフロー改善で感性のブレを防ぐ
- 同系色の連続作業を避ける
- ハイコントラスト案件は連続せず、中庸→極端→中庸の順番に
- 午前中:色判断/午後:仕上げ作業で感性の波を活用
- チェックリストやタイマーで“感性の浪費”を防ぐ仕組み化
この記事のまとめ
- レタッチでの眼精疲労は技術不足ではなく感覚器の疲弊
- 正しい作業環境・休憩・視覚ケアが感性の安定を生む
- 20-20-20・自然光・90分ルールなど具体的な手法を取り入れることが重要
- 色を見る目=感性を「守る仕組み」を意識的に設計しよう
このガイドを通じて、あなたのレタッチ作業が「目に優しく、感性に強く」なれば幸いです。

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