
長時間露光の世界へようこそ
写真には「瞬間を切り取る」楽しみと、「時間を描く」魅力があります。
その後者を象徴する技法が「長時間露光」です。
長時間露光とは、カメラのシャッターを長く開け、光を時間とともに記録する撮影手法です。
水の流れを滑らかに写したり、星の軌跡を捉えたり、夜景を幻想的に見せたりと、肉眼では見ることのできない“時間の表現”を写真として可視化します。
この記事では、「長時間露光とは何か」から「NDフィルターの選び方・使い方」、そして「撮影の実践テクニック」まで、初心者でも理解できるように丁寧に解説します。
長時間露光とは?基本の仕組みと考え方
シャッタースピードと時間表現の関係
長時間露光とは、カメラのシャッターを長く開いた状態で撮影し、光の軌跡や動きを1枚の写真に記録する手法のことです。
一般的な写真では1/60秒〜1/250秒の速いシャッタースピードを使いますが、長時間露光では1秒以上から数分、時には数時間に及ぶこともあります。
この「長い時間の露出」によって、動く被写体が滑らかに流れ、時間の経過そのものを写し込むことができます。たとえば、滝が絹のように写る、雲が空を流れるように見える、星が軌跡を描くなど、長時間露光ならではの世界が広がります。
光の量と露出のバランス
露出とは、カメラのセンサーが受け取る光の総量を意味します。
露出を決定する3要素は以下の通りです。
- シャッタースピード(光を取り込む時間)
- 絞り(F値)(光の通る穴の大きさ)
- ISO感度(光に対する感度)
長時間露光では、シャッターを長く開けるため、光が多く入りすぎて「露出オーバー」になりやすくなります。
この光量をコントロールするために使うのが「NDフィルター」です。
NDフィルター(減光フィルター)は、光の量を減らし、昼間でもシャッターを長く開けることを可能にする撮影アイテムです。


時間を描く表現としての長時間露光
瞬間を切り取る写真 vs 時間を描く写真
通常の写真は「一瞬」を止めて記録しますが、長時間露光では**「時間の流れ」そのものを記録**します。
風で揺れる木々や流れる川、動く雲や車のライトの軌跡——これらが1枚の中で重なり合い、現実には存在しない“時間の融合”が生まれます。
この表現は、ただの記録写真ではなく「創造的な表現」としての写真の可能性を広げてくれます。
非日常感を生む長秒露光の魅力
長時間露光の最大の魅力は、肉眼では見られない幻想的な世界を写せることです。
波がまるでミルクのように滑らかに見えたり、滝が絹糸のように流れたり、雲が空一面を覆うように広がる光景は、まるで夢の中のような印象を与えます。
現実と非現実が交錯する世界——それが長時間露光の醍醐味です。
長時間露光が使われる代表的なシーン
長時間露光は、以下のような被写体やシーンで特に効果を発揮します。
- 滝や川:水の流れを絹のように滑らかに
- 夜景や街の光:車のライトが光の線に
- 星景写真:星の軌跡を円弧状に描く
- 雲の流れ:空に動きを与え、スケール感を演出
- 都市風景:人や車を消し、静寂感を表現
これらはすべて、「時間を閉じ込める」という長時間露光ならではの表現です。

NDフィルターの役割と選び方
NDフィルターとは?
NDフィルター(Neutral Density Filter)とは、レンズに入る光の量を減らすためのフィルターです。
昼間や明るい環境でもシャッタースピードを長くできるようにすることで、長時間露光を可能にします。
たとえば、真昼の太陽光下では1/2000秒程度が適正露出となる場面でも、NDフィルターを使えば1秒、10秒、場合によっては30秒以上の露光が可能になります。
NDフィルターの種類(ND4・ND8・ND1000など)
NDフィルターは減光効果の強さによって種類が分かれています。
代表的なものは以下の通りです。
| フィルター名 | 光量減少量 | 減光段数 | 主な使用シーン |
|---|---|---|---|
| ND4 | 約1/4(2段分) | 2段 | 曇天や夕方の軽い減光 |
| ND8 | 約1/8(3段分) | 3段 | 滝や川の流れを滑らかに |
| ND64 | 約1/64(6段分) | 6段 | 晴天時の滝や海 |
| ND1000 | 約1/1000(10段分) | 10段 | 日中の長秒露光・雲の流れ表現 |
可変NDと固定NDの違い
NDフィルターには「可変ND」と「固定ND」の2種類があります。
- 可変NDフィルター:フィルターを回して減光量を自由に調整できる。撮影現場での柔軟性が高い。
- 固定NDフィルター:特定の減光量のみ対応。光学的な品質が安定しやすく、ムラが少ない。
風景撮影では固定ND、動画や実験的撮影では可変NDが人気です。
目的に応じて使い分けましょう。
おすすめNDフィルターをチェックする
長時間露光を成功させるための機材と設定
必須アイテム:三脚・レリーズ・NDフィルター
長時間露光では、ブレを徹底的に排除することが最重要です。
三脚は安定性の高いものを選び、シャッターを押す際は手ブレ防止のために**レリーズ(リモートシャッター)**を使用します。
また、NDフィルターは光量を制御するための“鍵”です。
最近では、スマートフォンをレリーズ代わりに使う方法も一般的になっています。各メーカーの純正アプリ(例:Canon Camera Connect、Nikon SnapBridge、FUJIFILM Camera Remoteなど)を使えば、BluetoothやWi-Fi経由でカメラを遠隔操作できます。シャッターをスマホから切れるため、手ブレを完全に防ぎながら長時間露光撮影が可能です。外出先でも軽装で撮影できるのが大きなメリットです。
設定の基本:シャッタースピード・絞り・ISO
長時間露光では、まずシャッタースピードを最優先に設定し、それに合わせて絞りとISOを調整します。
- シャッタースピード:1秒〜数分(目的に応じて)
- 絞り:F8〜F16(被写界深度を確保)
- ISO:100前後(ノイズを抑制)
このバランスが崩れると、白飛びやノイズが発生しやすくなるため注意が必要です。
ピントと測光のコツ
NDフィルターを装着すると、ファインダーが暗くなりピントが合わせづらくなります。
そのため、NDフィルターを装着する前にピントを合わせてAFをオフにしておきましょう。
また、露出(明るさ)もND装着前に測光しておくと失敗が減ります。
撮影シーン別・長時間露光テクニック
滝・川を滑らかに写す方法
- シャッタースピード:1〜5秒
- NDフィルター:ND8〜ND64
- 構図:流れを斜め方向に入れると奥行き感が出る
夜景・街の光を描く方法
- シャッタースピード:5〜30秒
- ISO:100〜400
- 三脚・レリーズ必須
- 車のライトが線状になり、動きのある夜景が生まれる
星の軌跡を撮る方法(星景写真)
- シャッタースピード:15分〜数時間(バルブ撮影)
- レンズ:広角(F2.8〜F4推奨)
- 注意点:バッテリーとメモリー容量を十分に確保
地球の自転を写し出す、宇宙を感じる一枚になります。
雲の流れを表現する方法
- シャッタースピード:30秒〜数分
- NDフィルター:ND1000以上推奨
- 構図:動かない建造物と空の対比を活かす
トラブル回避と仕上げのコツ
色かぶり・ノイズ対策
可変NDでは特に色かぶりが起きやすいため、RAWで撮影し現像時にWB調整するのが鉄則。
長秒露光でセンサーが熱を持つとノイズが増えるため、「長時間ノイズリダクション機能」を活用しましょう。
ブレ防止の工夫
風が強い日は、三脚にバッグを吊るして安定性を高めるのが効果的です。
また、電子シャッターやミラーレスカメラを使用することで「ミラーショック」を防ぐことができます。
NDフィルターによる画質低下を防ぐには
安価なNDフィルターではムラやフレアが発生することがあります。
信頼できるメーカー(NiSi、Kenko、Haidaなど)の高品質NDフィルターを選びましょう。
RAW現像と写真の仕上げ
RAWデータで撮影すれば、ホワイトバランスや露出を自在に調整できます。
特に長時間露光写真では、明暗差のコントロールと色味の再現が作品の完成度を左右します。
- ホワイトバランス:色温度を調整して雰囲気を演出
- ハイライト/シャドウ:ヒストグラムでバランス確認
- 彩度:自然なトーンを保ちつつ印象を強調
よくある質問(FAQ)
Q:長時間露光で必要な機材は?
A:三脚、NDフィルター、レリーズ(リモートシャッター)の3点が基本セットです。
Q:昼間でも長時間露光はできますか?
A:NDフィルターを使用すれば可能です。特にND1000以上が効果的です。
Q:NDフィルターなしでは無理?
A:夜間や暗所なら可能ですが、日中は光量が多すぎて白飛びします。
まとめ:長時間露光で「時間を描く」写真を撮ろう
長時間露光は、単にシャッターを長く開けるだけの技法ではありません。
それは「時間の流れを一枚に閉じ込める」創造的な写真表現です。
NDフィルターや三脚といった機材を正しく使い、設定を理解すれば、初心者でも驚くほど幻想的な作品を生み出せます。
最初の一枚が上手くいかなくても大丈夫。試行錯誤の先に、あなたにしか撮れない“時間の芸術”が待っています。
これから空気が澄んでくる季節!!まずは旅の準備を!!

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